無知の知「エロースとは何かね」【ギリシャ哲学】

哲学者ソクラテスはおしゃべりが多く,執筆するタイプではなかったので弟子のプラトンがソクラテスの本を書き残しました。

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まさに紀元前のことで旧約聖書が書かれた時代です。

  • ソクラテス(BC469〜BC399)
  • プラトン (BC427~BC347)

ちなみに「饗宴きょうえん」とは,食事をしたりワインを飲んで社交すること。

つまり飲み会です。

「・・・酒はもう十分飲んだ。どうだろう,ここで愛について語り合おうじゃないか」

こうした発言から「愛」をテーマにした演説が始まりました。

私たちの身近なテーマを対話形式で展開するプラトンならではの作品は魅力的です。

愛を語る演説ゲーム

知識人たちによる演説が始まります。

ここでは次々と「愛」について,主張が飛び交いました。

パイドロス(文学好きの若者)
パイドロス(文学好きの若者)

「愛の効用は死をも恐れない勇気だ」

パウサニアス(アガトンの恋人)
パウサニアス(アガトンの恋人)

愛は男女関係や肉体的の「世俗的な愛」ではなく,理性を備えた男性同士でも愛することができる「天上的な愛」こそ尊ぶべきだ。

 
エリクシマコス(医者)
エリクシマコス(医者)

「愛は全宇宙,体の調和も司るものだ」

アリストファネス(喜劇作家)
アリストファネス(喜劇作家)

「人間は失われた半身を探すものだ」

アガトン(悲劇作家)
アガトン(悲劇作家)

愛とは「美」を求める優美な神。

『そのお方は人々のなかに平穏を 大海原に凪の静けさと風の寝床を 不安には深き眠りを作り賜うた』

5番目に主張したアガトンは続けて美しい言葉を並べ,周りから称賛されました。

ここでソクラテスだけが別の視点から主張をします。

ソクラテス
ソクラテス

私は美しい言葉を並べることは苦手だ。これまでの演説は美しい言葉を飾るだけで真実とは程遠いものだ。

しかし私は,真実についてなら語る気持ちはある。

そしてソクラテスは優秀の美を飾ったアガトンに質問をします。

ソクラテスの質問といえば,哲学界で有名な「問答法」です。

「 問答法 」とは

先程のアガトンの主張は「愛は美を求める美しい神」というものでした。

ギリシャ時代では,完璧な愛というものを「愛の神エロース」と呼ばれていました。(現代で使われるエロティックといった言葉の語源にあたります)

愛とは,愛の神エロースによってもたらされていると考えられていたのです—

「問答法」とはどういうものか,実際に行われる次の会話を見てみましょう。

ソクラテス
ソクラテス

エロースとは,何かに対するあいなのだろうか?それとも,どんなものへの愛でもないのだろうか?

アガトン
アガトン

もちろん。何かに対する愛です。

ソクラテス
ソクラテス

それではエロースは,愛するその対象を欲求しているのか?いないのか?

アガトン
アガトン

もちろん。欲求しています

ソクラテス
ソクラテス

「欲求する」というのは,愛するその対象を持っている時かね?それとも持っていない時かね?

アガトン
アガトン

どうやら,持っていない時です。

ソクラテスは質問を繰り返しながら,アガトンの矛盾点を突いていきます。

ソクラテス
ソクラテス

だれであっても欲求する人は手元にないもの,現にないものを欲求しているのである。つまり『欠けているもの』を欲求するのだ。

アガトン
アガトン

まったく,その通りです。

ソクラテス
ソクラテス

アガトン。君は「エロースは美を求める」と言った。とするとエロースは美を欠いていて,美を持っていないことになる。

アガトン
アガトン

どうしても,そうなりますね・・・。

ソクラテス
ソクラテス

ではどうだろう。美を欠いていて,けっして美を持っていないものを君は『美しい』と言うだろうか?

アガトン
アガトン

・・・いいえ。

ソクラテス
ソクラテス

さあでは,君はエロースが美しいことに同意するだろうか?

アガトン
アガトン

・・・ソクラテスよ。私はおそらく,先ほど自ら語った事柄について何ひとつ知ってはいなかったのです。

ソクラテスの問答によって,アガトンは自分が話した内容の意味を知らずにいたことに気づきました。

これが有名なソクラテスの無知の知です。

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【 無知の知 】

無知の知とは「無知の人間は知恵を求めず,無知であることを自覚した人間が知恵を求める」というものです。

ソクラテス
私たちはまだ何も知らないということを知ることから始めようじゃないか」

知識人たちは演説しただけで自らが語る意味を理解していませんでした。

それに対してソクラテスは,「まず無知であることに気付いてから一緒に真実に迫ろう」という考えを示しました。

ソクラテスは書籍のなかでも自身と架空の人物との対話を表現します。

その結果,読者にはソクラテスと共に真理を追及している視点が与えられるのです。

そうした形で人に寄り添って学びを与える学者とも言われています。

プラトンの著作はこうした対話篇であることから読みやすいと定評です。